防滑床とは

防滑床とは滑り転倒し難い床のことを言う。ノンスリップ床という表現をよく耳にするが、英語では「滑らない」ではなく「滑りにくい」という意味のアンチスリップ(Anti-slip)床がより正確な表現である

1.防滑床の定義について

平成18年12月20日に施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」、通称「バリアフリー新法」や国土交通省の営繕仕様書では「床材は滑り難い材料を使用すること」と表記されているが、明確な「防滑床」の定義(例えば「防滑床は〇〇試験で△△以上の性能のもの」)は示されていない。

JIS規格や都道府県の条例等で推奨の滑り抵抗値は示されいるが、防滑床の明確な定義には至ってはおらず、防滑床の採用は設計者や採用者個々の解釈・判断に委ねられており、同様に、各メーカーのカタログ等にも「防滑床」の防滑性能の評価結果等が示されているが、引用した試験方法やその内容がまちまちで単純に比較できないのが現状である。

「滑り難い床にしたつもりが実際は滑る床だった、滑り転倒事故が起こってしまった。」という話をよく耳にするのは明確な「防滑床の数値化された定義」がないことに起因するものと言える。

2.「防滑」関連語句の定義

「防滑」関連語句の定義は次とする。

【滑り性・防滑性】

床材と履物又は素足が接している時の履物又は床面側から見た界面の滑り易さを「滑り性」とし、滑り難さを「防滑性」とする。履物側から見た界面の滑り難さは「耐滑性」とする(安全靴の滑りの測定法については、2001年に国際規格(ISO 13287:2006)が制定され、日本国内では滑り難さの表現を「耐滑」と表現)。

【介在物】

浴室での水やシャンプー、屋外での雨水や泥水、厨房での油や石鹸水、食品加工場での血や食材から出る水分等、床材と履物又は素足の間に介在する液体(粉体が混入したものを含む)状のもの全般を「介在物」とする。

【代替介在物】

滑り性試験等で用いる、上述の介在物の代替材(例:石鹸水の代替材として用いる10%PVA水溶液やなたね油)を「代替介在物」とする。

【滑り片】

ゴム・革等の靴底や素足の代替材として滑り試験機等に取り付ける素材を「滑り片」とする。

【前処理】

滑り性試験等を行う前に行う、使用後数年経過した床材の摩耗した状態を再現するための処理(加工)を「前処理」とする。

3.防滑床材に求められる性能

防滑床材に求められる性能として、次が挙げられる。

① 防滑性能

床材は通常、乾燥/清掃状態ではほとんど滑りは発生しない。床表面に何か介在物が存在する場合に危険な滑りを生じる。代表的な介在物として、プールサイドでは水、エントランス・歩道等では泥水、風呂場では石鹸水、厨房・食品工場では油・血がある。よって、防滑床材には水のみならず石鹸水や油が掛かっても、滑り難いことが求められる。

② 耐摩耗性能

床で使用する材料は必ず表面が摩耗する。表面が摩耗すると表面の凹凸が浅く/無くなり、結果、防滑性能が低下する。素足以外の下足歩行量の多い場所や重量物を載せたカートや台車等の通行がある場所等においては摩耗量が大きくなり短期間で防滑性能が失われることが懸念される。

③ 無/低吸水性

セラミックタイルの吸水率は最も小さいⅠ類(旧磁器質タイル)でさえ3%以下であり、日本で産出される最も有名な稲田御影は0.36%(御影石0.1~5%)、一般的なコンクリートは5~10%と言われている。それらに対し高硬度石英成形板はハードタイプの吸水率0.04%、フレキシブルタイプ0.05%とほとんど吸水しない。

吸水率が大きい程、その水分に含まれる汚れや臭い、雑菌等も同時に吸収されることになる。一度吸収され、微細孔に入り込んだ汚れや臭い、雑菌等は、水洗いや掃除をしてもほとんど除去出来ず、玄関周りの汚れやトイレの臭い、風呂場のヌメリやカビの原因となり衛生上の大きな問題となる。

④ リフォーム性

セラミックタイルや石材、コンクリート素材の防滑床材はすべて硬質で、それら硬質素材で床のリフォームする場合は、既存床材を斫り除去後、不陸調整等下地を作ってから施工する。下地を作る前までに多額の費用と工期が掛る為、床のリフォームが困難であった。よって、防滑床容易なリフォーム性も求められる。

4.防滑床材の種類

4.1. 代表的な防滑製品と特徴

防滑化処理(加工)方式としては、床材の表面を粗面化(凹凸を付ける)する方式が一般的だが、微細孔を設け水が入り込んだ時の表面張力を利用する吸盤方式もある。

代表的な防滑製品(工法)を次に示す。(表1参照)

① ハイブリッドストーン(高硬度石英成形板)の防滑製品

細骨材同士を結合する樹脂の部分のみを超高圧水で除去することにより、表面に凹凸を付けて防滑化。水・石鹸水・油など様々な介在物に対し高い防滑性能を示す。耐摩耗性能を有しほとんど吸水しない。フレキシブルタイプはリフォーム性に優れる。

② 陶磁器質タイルの防滑製品

成形時の型に凹凸を付けるたり表面に掛ける釉薬に細骨材を混入させることにより、タイル表面に凹凸を付け防滑化。水が介在物の場合は高い防滑性能を示すが、石鹸水や油等が介在した場合、十分な防滑性能を得られない。重歩行の通路等では摩耗しやすく、吸水率も高い。硬質なためリフォームには不向きである。

③ 御影石バーナー仕上げ

御影石は主に石英、長石、雲母から構成されており、御影石の表面をバーナーで炙ることにより雲母が膨張剥離し、表面に凹凸を付け防滑化。水が介在物の場合は高い防滑性能を示すが、石鹸水や油等が介在した場合、十分な防滑性能を得られない。重歩行の通路等では摩耗しやすく、吸水率も高い。硬質なためリフォームには不向きである。

④ 滑り止め溶剤塗布による表面の微細孔化する工法

床材の表面を滑り止め溶剤で部分的に溶かすことにより、ミクロンレベルの蛸壺のような孔を無数に開ける工法。施工直後は微細孔に入り込んだ水の表面張力による吸盤効果が期待でき、防滑性能を得られる。滑り止め溶剤を施工した床材の耐摩耗性能に耐久性が左右される。ゴミや油脂等が穴の中に詰まり短期間で吸盤効果がなくなるため耐久性は期待できない。リフォーム性は優れている。