蓄光性能と視認性について
1.はじめに
主に建築物の中に設置されている誘導灯や蓄光式誘導標識についての視認性については、消防法の中で輝度及び表示面の大きさを規定することで一定距離からの視認性を確保している。
また、主に屋外に設置される津波避難誘導標識についてはJIS Z 9097:2014(津波避難誘導標識システム)の附属書Dの中で、蓄光材料の輝度及び図記号の大きさと視認性について言及している。
JIS Z 9097において蓄光材料の輝度及び図記号の大きさと視認性の検証を行う際、参考とされたのが建設技術審査証明「アルシオール・サインプレート」(建技審証第0806号)中の視認性実験データである。
蓄光材料の視認性は、蓄光製品そのものの発光性能と大きさにより大きく異なってくるが、この他、蓄光製品が設置される場所の環境照度にも大きく左右される(「蓄光とは」参照)。
災害等で広域に渡って停電すると無窓の屋内や階段室は真っ暗闇(照度0lx)となるが、屋外だと、夜間の停電時でも月明かり(三日月で約0.01lx、満月で約0.3lx)があるため、視認性が変わってくる。
2.屋内の誘導標識に求められる蓄光性能と視認性
2.1.蓄光(発光輝度)性能
誘導灯及び誘導標識の基準の一部を改正する告示(平成21年消防庁告示第21号)で高輝度蓄光式誘導標識について「D65蛍光灯200lxで20分間照射後、20分後の表示面が100mcd/㎡以上の平均輝度を有する蓄光式誘導標識」と蓄光(発光)性能を規定している。
これは、別途定める表示面の大きさ及び設置間隔の条件を満たせば、避難誘導に必要な視認性を確保できるという最低の性能である。
2.2.設置間隔
設置間隔については「廊下及び通路の各部分から一の蓄光式誘導標識までの歩行距離が7.5m以下となる箇所及び曲がり角に設けること」としている。蓄光式誘導標識までの歩行距離が最大となるのは蓄光式誘導標識と蓄光式誘導標識の中間地点であることから最大15m間隔(7.5m+7.5m)で設置すれば視認性が確保可能になる。
2.3.表示面の大きさ
上述の2条件を満たした上で視認性を確保できる表示面の形状及び大きさについては、「①正方形又は縦寸法を短辺とする長方形であること、②正方形のものにあっては一辺の長さが12cm以上とし、長方形のものにあっては短辺の長さが10cm以上かつ面積が300c㎡以上とすること」と定めている。ただし、D65蛍光灯200lxで20分間照射後、20分後の表示面が150mcd/㎡以上の平均輝度を有する発光性能が高いものについては、短辺の長さが8.5cm以上かつ面積が217c㎡以上とすること」としている。
上記3条件を満たすことで停電後20分間の避難誘導に必要な視認性を確保できる。
3.津波避難誘導標識に求められる蓄光性能と視認性(屋外)
3.1.蓄光(発光輝度)性能
JIS Z 9097:2014(津波避難誘導標識システム)の附属書Dの中で蓄光材料のりん光輝度(蓄光性能)について性能区分を示している。
区分 | 励起停止後、720 分後のりん光輝度 |
---|---|
I 類 | 3mcd/㎡以上 10mcd/㎡未満 |
II 類 | 10mcd/㎡以上 |
3.2.設置間隔及び図記号の大きさ
設置間隔及び図記号の大きさについては、「幅18mの2車線道路における交差点において、対角距離の視認性を考慮すると、Ⅰ類の場合は600mm☓600mm+600mm☓600mm(図記号+矢印)、Ⅱ類の場合は、Ⅰ類の場合は300mm☓300mm+300mm☓300mm(図記号+矢印)が目安」としている。
4.災害種別避難誘導標識に求められる蓄光性能と視認性(屋外)
4.1.蓄光(発光輝度)性能
JIS Z 9098:2016(災害種別避難誘導標識システム)の附属書Hの中で蓄光材料のりん光輝度(蓄光性能)について性能区分を示している。
区分 | 励起停止後、720 分後のりん光輝度 |
---|---|
I 類 | 3mcd/㎡以上 10mcd/㎡未満 |
II 類 | 10mcd/㎡以上 |
4.2.設置間隔及び図記号の大きさ
設置間隔及び図記号の大きさについては、「幅18mの2車線道路における交差点において、対角距離の視認性を考慮すると、Ⅰ類の場合は600mm☓600mm+600mm☓600mm(図記号+矢印)、Ⅱ類の場合は、Ⅰ類の場合は300mm☓300mm+300mm☓300mm(図記号+矢印)が目安」としている。
5.蓄光式誘導(案内)標識の視認性
JIS Z 9097の蓄光性能及び視認性検討時に参考資料として用いられた建設技術審査証明「アルシオール・サインプレート」(建技審証第0806号)中で蓄光式サインの視認性について言及している。
消防避難設備である高輝度蓄光式誘導標識やJIS規格化されている津波避難誘導標識、災害別避難誘導標識以外の蓄光式誘導標識等、例えば非常電話や距離表示、水位表示、案内表示板等については設置提案や計画時に活用可能である。
5.1.視認性試験の概要
視認性能試験は、一般財団法人土木研究センター主導で国土交通省国土技術政策総合研究所内の実大トンネル施設や標識屋内実験施設、試験走路実験施設にて行われた。高齢者と非高齢者から構成された述べ数十名の被験者による蓄光材料の見え方試験を行い、ランドルト氏環(視力検査で用いる一部が切り欠けた円環)の視認性を評価した。
視認性の評価は誘目距離及び判読距離により行った。
ここで、誘目距離とは「何か光っている」と物の存在がはっきりと認識可能な距離のことを言い、判読距離とは文字が判読できる距離のことを言う。
5.2.蓄光式誘導(案内)標識の誘目性
■環境照度0lxの下(新月天)で□15cm、10mcd/㎡の明るさの表示面を350m以上離れて視認可能
■環境照度0.1lxの下(満月天)で□30cm、50 mcd/㎡の明るさの表示面を約150m離れた所から視認可能
図1 表示面輝度と誘目距離との関係(環境照度0.1lx)
5.3.蓄光式誘導(案内)標識の判読性
■環境照度0lxの下(新月天)で□15cm、30mcd/㎡で約10m離れた所から判読可能
□60cm、30mcd/㎡で約30m離れた所から判読可能
■環境照度0.1lxの下(満月天)で□15cm、30mcd/㎡で約10m強離れた所から判読可能
□60cm、30mcd/㎡で約50m強離れた所から判読可能
図2 輝度と判読距離の関係(環境照度0lx)
図3 輝度と判読距離の関係(環境照度0.1lx)
5.4.誘目距離及び判読距離の活用方法
【例1】
表示面が10mcd/㎡の場合、図1から満月天(環境照度0.1lx)下でも□15cmサイズで約40m、□60cmサイズで約80mの視認性が確保できる。サイズが縦横4倍になると視認距離がおよそ2倍になるので□2.4mサイズで視認距離は4倍の160m、□9.6mサイズで8倍の320mの視認距離が得られる。
よって、アルシオール・サインプレート(12時間後輝度10mcd/㎡)を用いたφ10mサイズのヘリポートマークを設置すれば、満月天の夜間でも地震時などの緊急搬送のため320m離れた場所をドクターヘリからヘリポートマークが視認でき、照明がない真っ暗闇の状態でもドクターヘリの誘導をより安全かつスムーズに行うことができる。
【例2】
表示面が20mcd/㎡の場合、図3から満月天(環境照度0.1lx)下でも□30cmサイズで20m強離れたところから判読可能である。
よって、アルシオール・サインプレートを用いた「バスのりば」案内表示板を設置すれば、日没から5時間以上(最終バスの発着時間まで)20m以上離れた場所から「バスのりば」であることが認識できるようになる。停電時や照明が設置困難な場所に設置した場合等、暗闇時の視認性が格段に向上する。