蓄光材料の輝度測定について

1.用語の定義

本稿で用いる用語の定義は次とする。

蓄光材料:光(紫外線)エネルギーにより励起(を吸収)し、発光する材料をいう。

  • 励起:一般的には「分子・原子・原子核などの量子力学的な系が外部からエネルギーを得て、初めより高いエネルギーをもつ定常状態(励起状態)に移ること。」をいう。ここでは、より具体的に 「A 領域紫外線(UVA)~青紫色光(波長域:360nm~450nm)の光エネルギーを吸収し、波長 490nm(BG)、520nm(G)で発光する状態に移ること」をいう。
  • 励起時間:光エネルギーを吸収(照射)している時間。
  • 光源:太陽光及び蛍光灯、LED、白熱電球、ハロゲン、キセノン等、光(紫外線、赤外線を含む)を発する物体の総称。
  • 照度:物体の表面を照らす光の明るさを表す物理量。国際単位系(SI)ではルクス(記号: lx)
  • 紫外線:太陽からの日射は、波長により、赤外線、可視光線および紫外線に分けられるが、可視光線よりも波長の短いものが紫外線。紫外線(UV)の中でも、波長の長いほうから A・B・C と大別される。
  1. UVA (315-400 nm): 大気による吸収をあまり受けずに地表に到達する波長域で生物に与える影響は UVB と比較すると小さい。太陽からの日射にしめる割合は数%程度。
  2. UVB (280-315 nm): 成層圏オゾンにより大部分が吸収された残りが地表に到達する波長域で生物に大きな影響を与える。太陽からの日射にしめる割合は 0.1%程度。
  3. UVC (100-280 nm): 成層圏及びそれよりも上空のオゾンと酸素分子によって全て吸収される波長域で地表には到達しない。
  • 紫外線強度:紫外線の量(強さ)。ここでは UVA の強さを指す。単位はマイクロワット毎ヘイホウセンチメートル(記号:μW/c m2)

  • 色温度:光の色を表す単位。黒体に高熱を加えた際に放射される光の色を、そのときの黒体の温度で表現する。色温度が低いほど赤みがかった光色、色温度が高いほど青みがかった光色となる。
  • 単位はケルビン(記号:K)

  • 常用光源蛍光ランプ D65:JIS Z 8716(表面色の比較に用いる常用光源蛍光ランプ D65−形式及び性能)で規定されている表面色を視感によって比較する場合に用いる光源。蓄光材料関連の現行JIS や消防避難設備の認定試験で採用されている光源。色温度 6500K の蛍光ランプ。

  • 蛍光灯:ガラス管の中に放電しやすくするためのアルゴンガスと、ごくわずかな水銀が封入されており、その内壁に蛍光体が塗布されている放電灯の一種。室内のメイン照明として従来から最も多く使用されている。色温度は白色蛍光灯が約 4000K、昼白色蛍光灯が約 5000K、昼光色が約6500K(D65蛍光灯が含まれる)。

  • LED 照明:発光ダイオード (LED) を使用した照明器具。蛍光灯と較べ低消費電力で長寿命であるため、照明器具の主力光源として急速に普及中の照明。形状も従来の照明器具を模したものが殆ど揃っている。

2.蓄光材料の発光性能に関わる要因

蓄光関連 JIS や認定制度等においては、蓄光材料の発光性能評価を正確に行うため、りん光輝度の測定条件を細かく定めている。すなわち、全ての測定条件が規定通りに実施されなければ、測定結果が異なってくるということである。

蓄光材料の発光性能に関わる外的要因(測定条件)を高輝度蓄光式誘導標識の認定試験を例に次に列挙する。ちなみに、内的要因とは試料となる蓄光材料素材自体が有する発光性能のポテンシャルを指す。

2.1.環境温度

りん光輝度を測定する室内の温度。1測定対象物である高輝度蓄光式誘導標識(以下、試料とする)の保管温度及び2励起中、3測定中の室温。認定試験では1~3の全て 23±2°Cと定めている。ちなみに相対湿度も保管中が 65±5%、測定室内が 50±15%と規定されているが、湿度が発光性能に影響を与えることは確認されていない。

2.2. 試料の保管時間

試料の試験前の励起光源が一切ない暗所での保管時間。24 時間放置後(暗所)、励起前に 3 時間以上外光を遮断した状態で試験を行う部屋内で保管することと定められている。

ちなみに、JIS Z 9098(災害種別避難誘導標識システム)では励起強度が高い(紫外線強度:400μW /c m2)ため、48 時間以上暗所保管となっている。

2.3. 励起光源の種類

試料の励起に用いる照明の種類。認定試験では励起光源は常用光源蛍光ランプ D65と定められている。

ちなみに、JIS Z 9098(災害種別避難誘導標識システム)では励起強度が高い(紫外線強度:400μW /cm2)屋外励起を想定しているため、太陽光の光波形が類似しているキセノンランプでの励起となってい

る。

2.4. 励起照度(紫外線強度)

試料を励起する時の照度の大きさ(高さ、強さ)。認定試験では 200lx、100lx、50lx の 3 水準がある。

ちなみに、JIS Z 9098(災害種別避難誘導標識システム)では励紫外線強度 400μW /c m2励起となっている。

2.5. 励起時間

試料を一定照度(200lx、100lx、50lx)で励起する時の時間。認定試験では各照度で 20 分間と定められている。

ちなみに、JIS Z 9098(災害種別避難誘導標識システム)では 60 分間励起となっている。

3.りん光輝度への影響の解説

前項で述べた発光性能に関わる各外的要因について、影響の内容やその理由等、次に解説する。

3.1. 環境温度

蓄光材料はそのもの自体が置かれた環境温度により発光性能(輝度の測定値)に影響を受ける。具体的には環境温度(材料温度)以外の要因を同一条件とした場合、一般的に環境温度(材料温度)が高い程、初期輝度が高いが、720 分後輝度は低くなる傾向にある。

初期輝度:環境温度「高」>環境温度「低」  720 後輝度:環境温度「高」<環境温度「低」

下表にドペル社蓄光製品/アルシオール・サインプレートの例を示す。

表 3.1.環境温度と輝度(励起条件:D65、3000lx で 120 分励起)

環境温度 30℃  15℃  0℃
初期輝度(5 分後) 2,667mcd/m2 2,543mcd/m2 2,231mcd/m2
720 分後輝度 11mcd/m2 15mcd/m2 16mcd/m2

3.2. 試料の保管時間

蓄光材料の高性能化により、12 時間後でも 10mcd/m2以上の輝度を保持する製品が出てきている。まだ残存輝度がある状態で励起をすると、残存輝度が積算されるため正確な評価ができない場合がある。この理由により試験前に暗所で 24 時間放置後、励起前に 3 時間以上外光を遮断した状態で試験を行うこととしている。

3.3. 励起光源の種類

励起光源は消防避難設備の認定規準では常用光源蛍光ランプ D65、JIS Z 9098(災害種別避難誘導標識システム)ではキセノンランプを採用している。

一般的に蓄光材料は光源の中でも UVA~青紫色光(波長域:360nm~450nm)付近の光線を吸収(蓄光)するため、この波長域付近の波長を含む光源(太陽光、蛍光灯、白色 LED 等)であれば励起される。逆に、赤外線ランプや赤色 LED 等の光では励起されない。

従来、室内照明のメインに使用されていた蛍光灯は同照度でも色温度によって紫外線強度が異なる。LED 照明は一般的に各種蛍光灯より紫外線量は少ない。光源別照度と UVA の関係を下表に示す。