防滑性能に関する法令・規格・認定基準について
1.防滑性能に関する関連法令・条例等における防滑性能
1.1. バリアフリー新法
2006年12月20日に施行された「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」、通称「バリアフリー新法」において、その施行令で、学校や病院、劇場、百貨店、ホテル、飲食店等の特定建築物の出入り口や廊下、階段、傾斜路、通路等の各条項において、「表面は、粗面とし、又は滑りにくい材料で仕上げること」と明記している。
バリアフリー新法に関する施行令や建築設計基準には「滑りにくい材料」について摩擦係数のような具体的な防滑性能に関する数値等は示されていないが、東京都などの自治体では、バリアフリー新法を受けて(社)日本建築学会材料施工委員会内外装工事運営委員会 床工事 WGが策定した『床の性能評価方法の概要と性能の推奨値(案)』(2008 年 6 月)で示された数値を施設整備マニュアルの中で「必要な整備」として記載している。
- 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)
- 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律施行令
- 高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準
- 床の性能評価方法の概要と性能の推奨値
1.2. 東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル
バリアフリー新法を受け、具体的な施設整備内容について東京都が策定した「東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアル(平成26年版)」の中で床の滑りについて次のような具体的な数値が示されている。
㉘床の滑り(P166)に示されている一般社団法人日本建築学会材料施工委員会内外装工事運営委員会 床工事 WGが策定した『床の性能評価方法の概要と性能の推奨値(案)』(2008 年 6 月)数値は次表の通り。
上記推奨値はJIS A 1454(高分子系張り床材試験方法)に定める床材の滑り性試験によって測定される滑り抵抗係数(C.S.R)やJIS A 1509-12(セラミックタイル試験方法・第12部:耐滑り性試験方法)によって測定される素足の場合の滑り抵抗値(C.S.R.B)による。
※上記試験で用いるすべり試験機(O-Y/PSM)では、滑り片を試料表面に接触させた瞬間に 785 N/s の引張荷重速度で,18°の角度で斜め上方へ引っ張ったときに得られる最大引張荷重(Pmax) を測定し、静摩擦係数(C.S.RやC.S.R.B)を求める。
1.3. ハイブリッドストーン「アベイラス アンプロップ」(防滑製品)の滑り性(静摩擦係数)
ハイブリッドストーン「アベイラス アンプロップ」についてすべり試験機(O-Y/PSM)で測定したC.S.R値(介在物:水)は、0.8以上、C.S.R.B値(介在物:水)は1.3以上であり、十分な滑り抵抗値を有している。他素材との防滑性能等の比較を表3に示す。
2防滑性能に関する規格・基準
2.1. BL部品認定
一般財団法人ベターリビング*1)の優良住宅部品認定制度の中に「浴室ユニット」の認定があり、この認定基準の中の「使用時の安全性及び保安性の確保」の項に「洗い場内でのすべりにくさ」について「洗い場内は、所定のすべりにくい性能を有していること。」と明記している。
この「洗い場内でのすべりにくさ」の評価方法の一つとして「洗い場床の動摩擦(転倒リスク度)試験」が規定されている。
*1)一般財団法人ベターリビング:国民の住生活水準の向上に寄与することを目的として、1973年に当時の建設省(現国土交通省)より認可を受け設立され、翌1974 年に優良住宅部品(BL部品)の評定機関として指定を受けて以来BL部品の認定に関する業務を行う機関。
2.2. 洗い場床の動摩擦(転倒リスク度)試験の概要
動摩擦係数(以下、COFとする)の測定はN.A滑り試験機により行う。
N.A滑り試験機は、国からの助成金を受け、独立行政法人労働者健康安全機構・労働安全衛生総合研究所と早稲田大学理工学術院、弊社(ドペル)の共同研究(以下、滑り転倒共同研究とする)の中で開発した万能型動摩擦試験機である。
評価する床材を試料固定台にセットし、石鹸代替介在物を塗布した後、滑り片を所定の動作で滑らせ、その間のCOFを測定する。滑り片の動作は、鉛直力250Nが床面に掛かる接地時までの速度を0.1m/sとし、接地後5m/s2の加速度で速度が0.5m/s以上に達するまで加速させる。
接地完了時(速度0.1m/s)から速度が0.5m/sに達する間のCOFを連続的に測定し、その間のCOFの最小値及び最大値を読み取る。
2.3. 洗い場床に求められる動摩擦係数
優良住宅部品の一般仕様洗い場床については0.08以上の動摩擦係数(COF)が求められている。長寿社会対応浴室ユニット仕様の洗い場床の動摩擦係数については未だ規定値が定められていないが一般床より高い動摩擦係数が求められる。
上述の滑り転倒共同研究で判明した、最も危険な床面状態(液体石鹸・シャンプー等の原液が床面にこぼれた状態)における洗い場床の滑り転倒リスクと動摩擦係数の関係を表4に示す。
表4の数値は、洗い場床には液体石鹸やシャンプー等、そのまま踏むと非常に滑りやすい液体が介在することも想定されるため、最も滑りやすい危険な床面状態における転倒リスクと動摩擦係数の関係を示したものである。
最も滑りやすい床面状態においては、動摩擦係数が0.15以上でも滑り転倒リスクが50%程度あり、このような状態下では2回に1回、滑り転倒事故が起こる可能性がある。
よって、最悪の状況下でも滑り転倒リスクが10%未満に抑えられることが望ましい。
2.4. ハイブリッドストーン「アベイラス アンプロップ」(防滑製品)の滑り性(動摩擦係数)
ハイブリッドストーン「アベイラス アンプロップ」についてN.A滑り試験機で測定した動摩擦係数は0.27、転倒リスクは0%であり、最も滑りやすい床面状態においても安心して利用可能である。(表5洗い場床材の動摩擦係数と転倒リスクの「床材G」参照)
表5に示す床材B~Fは一般的な浴室の洗い場床材(床材Aは比較のためかなり滑りやすいと思われる屋内用磨き床材)である。その中間に位置する床材Dの動摩擦係数0.08を一般仕様洗い場床の動摩擦係数の最低基準値としている。
表5で使用した床材は次の通り。
床材A:石材(鏡面磨き仕上品)⇒明らかに滑り易い比較用サンプル
床材B:せっ器質タイル(高低差0.02mmの微細波形表面形状)
床材C:せっ器質タイル(高低差0.06mmの緩やかな波形表面形状)
床材D:FRPユニットバス床(方形格子状の溝を有する表面形状)
床材E:FRPユニットバス床(方形格子状の溝を有する表面形状)
床材F:高硬度石英成形板(ハイブリッドストーン「アベイラス アンプロップ」)
床材G:防滑シート(下足歩行用の粗い凹凸表面形状)⇒明らかに滑りにくい比較用
※床材B~床材Fが浴室床材として現在使用されている代表例。床材A及び床材Gは比較用として極端に滑りやすい床材及び滑りにくい床材を選定。